ープロローグーだけは小説風にしてみた
かねてより計画していた2泊3日のキャンプは──西のほうに台風が上陸するようだけれど──<小雨の日/曇りの日/晴天の日>の順番に一日ずつ別々の天気になるはずだった。
目的地は標高1000m程度の富士山麓にある「十里木キャンプ場」。毎年周辺にクマが出て行政がホームページで注意喚起の告知をするぐらいの今どき珍しい野趣あふれるキャンプ場だ。関東圏ではもっとも気に入っていたのだけど今年度で閉鎖されることになっている。残念だが大人の事情もあって仕方がないのだろう。
そんな十里木に行くのはうちの子どもたちにとって毎年の夏のビッグイベントになっていて、ぼくも一週間ほど前から天候を気にするこどもにせがまれては、信頼を寄せている天気予報サイトを軸に複数の予報を見比べるような日々を送っていたのだった。
そんな十里木に行くのはうちの子どもたちにとって毎年の夏のビッグイベントになっていて、ぼくも一週間ほど前から天候を気にするこどもにせがまれては、信頼を寄せている天気予報サイトを軸に複数の予報を見比べるような日々を送っていたのだった。
台風の進路がどうなるかを気に掛ける日々だったが、前日予報では小雨・風速3mになっていた。それは当日の朝も変わることなく、また他のサイトを見ても概して同じような数値を示していた。初日は少し降られるかもしれないが、これならまあ問題はないだろう。
日々の仕事で積み重ねる小さな意思決定が(ひとつひとつの小さな意思決定を適時最善のものとしていくことで)大きな問題に繋がることがないように、今回の「キャンプへ行く」という決定も適切な判断だったね、というよりは決定の是非すら話にあがることはないはずだった。
当日の朝。出発はほぼほぼいつもの定刻(いつもと同じく僕の決めた予定時刻から少し遅れた時間)通り。キャンプ道具やら何やらを詰め込んだSUVに家族全員が乗り込み、首都圏のインターチェンジから東名高速へ入る。交通は順調に流れていて、おかげで目的地最寄りのインターチェンジも予定通りの時間で通過することができた。
念のため最初のコンビニでもブックマークしておいた天気予報サイトをチェックしたが雨量も風速も変わりない。相変わらず小雨だけは続いていたが想定内だった。心配していた台風もそれほどの影響はないようで時折フロントガラスに雨粒がつくぐらいだ。予定通りだ。全く問題はない。
思えば僕の子供時代、祖父母や親世代の人たちはやたらに「自然には勝てない」と口を揃えていた。しかし、世の中変わるもので現代を生きる僕たちは指先ひとつで自然を知ることができる。そう、自然みたいな強大なものと勝ち負けをつける必要はないのだ。大事なのは知ることだ。知ることができれば自然と戦う必要はない。自然に勝てないのであれば戦わなければいい。こんなありがたい時代になったのも研究者や技術者のおかげだ。こうした人たちの知見や能力がそれほど報酬に反映されていないように思えるのはとても不思議なことだ。
エンジンはたんたんと回り続け、富士山麓エリアでの標高は順調にあがっていった。自衛隊の訓練するエリアを抜けて間もなく現地というところで道路脇に鹿を見つけて車を停めた。このエリアでは珍しくもない。鹿との遭遇は4年連続4回目というと甲子園のようだけど、この辺にいるだろうなと思ったら本当にすぐにいたぐらいだ。逃げも動じもしない鹿を子供が満足するまで眺めさせて僕はまたアクセルを踏んだ。
自称現代人の慢心がいとも簡単に崩れ去ったのはその直後だった。
──(つづく)
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